世界が新しくなるとき

先日、長年コーチとして伴走させていただいているクライアントが、
「鈴木さんのコーチングを受けると、世界が新しくなる感覚がある」
とおっしゃいました。

普段から「クライアントの世界を新しくしたい」と思って関わっているため、それが実現できているのはとてもうれしいことでした。
今回は、私がコーチとして、いかにクライアントの世界を新しくできると思っているのか、についてお伝えします。

自分の役割を言葉で再構築する

人は言葉で自分自身を「構築」しています。自分の役割についても、自身の言葉で「構築」しています。

たとえば「リーダーの役割とは、人を牽引することである」と言葉で定義している人がいるとします（言葉は無意識の内に存在していることも多いですが）。その人は、その自分の定義に基づいてリーダーという役割を全うしようとします。

コーチはその人に対してたくさんの問いかけをして、一緒にリーダーについて考え、リーダーというものを再定義してもらい、役割の再構築をはかっていきます。

• いつからリーダーは人を牽引するものだと思ってきたのか？　何かきっかけがあったのか？
• リーダーは、人を牽引する以外、どんな役割を持つものか？
• 今、社員やその他のステークホルダーが、リーダーであるあなたに最も期待していることは何か？
• どこに向かって牽引したいのか？　何のために牽引したいのか？　誰を牽引したいのか？
• リーダーとして持つべき最も大事なマインドセットはどのようなものか？

そして、最後にもう一度「あらためて、リーダーとは何でしょう？」と問います。

こうした対話による探索を経て、多くの方は自分の中にあるリーダーに関する新しい言葉に出会います。そのように役割が再定義・再構築されると、世界は新しい顔を見せ始めます。「もっとこんなふうに周りと関わることもできる」「そうするとこんな関係性が生まれるかもしれない」「一緒にこんなことが実現するかもしれない」等々と。

30分程度のやり取りですから、その間に、世界が変わったわけでも、環境に変化が起こったわけでもありません。 ですが、自分の役割を構築する言葉がアップデートされることで、世界はちょっと新しい場所になります。

マイケル・ジョーダンをリーダーにしたコーチング

スポーツの世界には、選手が役割を再定義したことで「世界が変わった」いう例をたくさん見出すことができます。その一つは、アメリカバスケットボールNBAのシカゴ・ブルズで活躍した天才スコアラー、マイケル・ジョーダン氏でしょう。

キャリアの初期、彼は、チームプレーに課題があると批判を受けることがありました。ブルズの監督であったフィル・ジャクソンの著書『Eleven Rings: The Soul of Success』には、そんなジョーダン氏の役割を、ジャクソン監督がチーム全体の成功に向けていかに変化させたかが書かれています。

「マイケルは、挑戦することが大好きだ。だから私は、彼にチームメイトとの新しい関係を結ぶ方法をイメージさせることを試みた。（中略）私が彼に勧めたのは、チーム内での自分の役割をもう一度洗い直し、プレイヤーたちを団結させる触媒として働くことを思い描いてみることだった。自分の望みを命令したわけではなく、私は単に、異なった方法で問題を考えるよう促したのだ。（中略）『どうだ？　君がこうした時、スコッティやホーレスがどう感じるかな？』（中略）そして、マイケルはゆっくりと考え方を変えていった（※）」

ジャクソン監督は、ジョーダン氏の役割を「得点王」から「チームの勝利を実現するリーダー」へと、役割を再定義することに成功しました。その後、ジョーダン氏は、練習前に若手選手と個別にトレーニングを行ったり、コート外でもチームメイトとの交流を深めるなど、リーダーとしての役割を積極的に果たしたといいます。

「世界が新しくなる」とは、外側の現実が劇的に変わることではなく、自分の見ている「意味の風景」が変わることなのかもしれません。コーチングとは、その人が自身の役割やあり方を見つめ直し、新たな視点と言葉を手にすることで、目の前の現実を違った光で照らすプロセスです。ジョーダン氏にとって、それは「得点王」から「チームを勝利に導くリーダー」へと視点を変えることでした。

問いを通じて言葉に出会うこと。新しい言葉との出会いによって、見えるものが変わること。私はこれからも、そんな「再定義」を重ねることで、人の中にある「新しい世界」をともにつくっていきたいと思っています。